大野様対談

その人が持つ良さを引き出し、力強いパフォーマンスにつなげたい

元ホンダモビリティランド株式会社 専務取締役 大野 至 様

Beマネジメント 代表取締役 福間昭史

どんな人にも存在そのものに価値があります。その人の持つ可能性を引き出して、より力強いパフォーマンスにつなげるために、企業に求められることは何か――。弊社が提供する「エルダー人材の研修」を最初にご依頼いただいた元ホンダモビリティランド株式会社専務取締役の大野至様に、人材育成についてお話をうかがいました。

閉園が決まった遊園地の従業員をまとめた合言葉

福間

大野さんは私のお客様の中でも一番古いお付き合いになりますが、いつからになりますかね。

大野さん

私が36歳、マネージャーとして管理職になったばかりのころです。営業企画室という組織を立ち上げたのですが、総務・人事の経験がある上司のもとに福間さんという人が「お久しぶりです」と訪問してきてお会いしたのが始まりです。

福間

そうでした。お話したときの印象としては、営業というよりは、人事の方かなと思いました。

大野さん

もともと入社して最初の配属は多摩テックでしたが、その後本社の人事労務政策を10年担当していたので。その後人事からは離れ、長いこと営業の仕事が続いたので、もう管理の仕事には戻らないかなと思っていたら、総務部長になって人領域を受け持つことになりました。

福間

その後、多摩テックの総支配人になられたのですね。

大野さん

社長と専務と人事の話をしていた時に、多摩テックの総支配人になるように話がありました。赴任して3カ月経ったころに、閉園するとの決定が下りてきました。

福間

多摩テックを閉めに行く仕事だったのですね。

大野さん

結果的には閉めに行く仕事でした。

福間

結構なリストラとかをご経験されたのですか。

大野さん

全員雇用保証はしたけど、そうはいっても、地元に根差した人たちも多いので結局百数十人は、退職になったんだよね。本当に申し訳ないという思いでした。それでも従業員はよくやってくれました。ベストフィニッシュを目指して、最後の最後まで笑顔でお客様の対応してくれて、泣き笑いしながら会社から去っていった。あの顔は一生忘れられません。二度と繰り返してはいけないと心に強く誓う出来事でした。

福間

最後の最後まで、お客様から温かい言葉をもらった遊園地でしたね。

大野さん

もちろん歴史があったし、昔からのファン、3世代のファンがいたりというのがあったけど、あれだけうまくいったのは従業員ひとりひとりのパワー。僕ひとりが頑張ったって何もできるわけじゃない。ひとつだけちょっと自慢できるとすれば、閉園が決まって従業員に伝えなければならないときに、どう言っていいかわからず困り果てて。最後に出た言葉が「多摩テックはなくなっちゃうけど、お客様、子どもたちの心の中に、思い出で残せるよね。そのために頑張って協力してほしい」と言ったら、ひとつの方向を向いてくれた。計算して言った言葉じゃないし、半泣きしながら語った言葉でしたが、従業員みんながわかってくれました。「お客様、子どもたちの心の中に、思い出で残そう」が合言葉になりました。

福間

大野さんと長年お付き合いをしていて感じるのは、経営として厳しい決断をしなければいけないという局面はあるけれど、ギリギリのところで人を守ろうという思いがあるところですよね。

大野さん

やっぱりそれはホンダだからだと思う。ホンダの人に対する思い。「人間尊重」「3つの喜び」といった教え込まれた基本理念。(多摩テック閉園のときも)最初の段階から従業員の雇用は全部保証するとなったし、打ち切り補償もほぼ年収補償というところで経営は判断してくれたし、人に対するところはグループとして染みついていると思う。

福間

大野さんは謙虚な方だからそうおっしゃいますが、たくさんの方にお会いしたなかでも、一本筋が通っているというかブレないのは大野さんです。

大野さん

若いころから、そういうことばかりやっていたからだと思う。新入社員研修の講師として理念とかひたすら語るわけだから、身につくよね。

あえてエルダー人材に焦点をあてる

福間

2018年にご依頼を受けて始まった「中堅一般職研修」(エルダー人材の研修)は、最初に話を聞いたとき冷や汗が出ました。普通、研修を企画する時には、すでに会社の中で脚光を浴びている人や、スーパーエリートの方々に焦点を当てがちです。しかし、そうでもない人たちを対象に研修をやってくれと言われました。研修には自信を持っていましたが、さあどうしようかなと。

大野さん

研修って基本は将来の経営幹部を育てるみたいなものだろうけど、こういっては申し訳ないけれど、出来る人たちは研修をやらなくても出来がいいんです(笑)。当時、私は人事担当の常務になっていたのですが、役員で議論している中で、育成を後回しにしてしまった層があり、そこに焦点をあてていくべきではないかという話になったんです。「2:6:2」の話でいえば、上位の2割は教育しようがしまいが勝手に育つけど、残りの大多数を占める8割の人たちに頑張ってもらわなければ組織は活性化しません。その中でも同一ランクに長期間留まったが故に、ややパフォーマンスに陰りの見える層の人たちに何もしていなかったという現実がある。結局、後回しにしている内に年月だけが経ってしまって、会社としてやるべきことをやって無いのじゃないかという話になったんです。でも、ほっておいて良いはずがない、遅ればせながら費用と時間を使おうという結論になったんです。従業員に意識調査を3年ごとに行っていて、こうした課題が浮かび上がってきました。

どういう形でどういう人にお願いするかっていうときに、福間さんが適任だろうということになった。コンサルタントって対象企業の社風に合うか合わないか、対象者に合うか合わないかがあるじゃないですか。福間さん以外のコンサルタントとの付き合いもあるけれど、この研修は福間さんが合うだろうという確信はあった。38年勤めていて初めて成果があると思う研修だった(笑)

福間

ありがとうございます。初年度よりも、2年目の方が苦労しました。コロナ禍でリモート形式になったことも大きく影響して、なかなか会社からの愛情を伝えるのが難しかったという印象ですね。

大野さん

上の立場にいる人のブレークダウンの仕方が大きいと思う。現場をよく知っている人が「彼らはこういう言葉を求めているのではないか」「こういうことに困っているのではないか」という情報を持って話をするのと、いきなり偉くなって担当になった人がポーンと言うのでは切り込み方が違うから。研修の結果、受講者の中から数人が昇格にチャレンジしてくれるようになったし、効果はあったと思う。

福間

研修を通して受講者の表情が目に見えて変わってきました。定性的にどう測るかというのはありますが。会社に対する向き合い方が変わったからではないかと思います。会社からの愛情が伝わったんだと思います。僕の愛情ではなく、僕が翻訳している会社の愛情が伝わったなと思います。

大野さん

なぜ研修対象者(エルダー層)を大切にしなくてはならないのか。もっとベースの発想を言うと、採用難が目に見えているわけですよ。サービス業って基本的にずっと採用難の業種です。だから、今いる従業員が戦力になっていないと営業ができなくなってくるかもしれない、という危機感がベースにはありましたよね。

福間

経営としての思惑、事情は根っこにありながらも、受講者に発するメッセージが温かく伝わっているのが、良かったんですよね

大野さん

研修でトップがメッセージを発信するときも受講者の心に響くように伝えた方を工夫してくれたからね。そういう意味では講師だけじゃなく担当者、役員陣も含めて良いチームが出来た感じだよね。

福間

おっしゃる通りです。

プラスのところを見つけて活用するほうが会社も得

大野さん

エルダー人材の方々の中には、モチベーションの低い方もいます。現場でマネジメントしている人たちにとっては扱いづらいくて、ややもすると排除の気持ちになりがちです。その気持ちはわからなくもない。でも、長い目で見たら、大局的に見たらどうだろうか。経営としては、人を確保しなければいけないし、そう簡単に排除することはできない。

福間

一言でエルダー研修というと良さそうな響きもありますが、綺麗事では語れないところ、生易しいものではないところもありますよね。ただ、難しさはあるものの、新入社員を採用して一から自社の色に染めるよりも、基本のスキルがあり、組織が求めている考え方も、ある程度分かっている人に焦点を当てて、活き活き働いてもらった方が組織への影響力が高いのは間違いない。

大野さん

仕事ができないわけじゃないし、ノウハウは持っています。例えば、テーマパークのスタッフでお客様を盛り上げるのは得意でなくても、ゲリラ豪雨が発生して速やかにお客様を誘導しなければいけない場面ですごい力を発揮する人もいる。いろんな人がいて色んな特性がある。この人は何ができるかって言うのを見る必要がある。マイナス見ていると全部だめになっちゃうけど、どこかプラスのところを見つける。そのほうが得だと思います。

福間

大野さんの人材マネジメントに対する基本は、やはりホンダフィロソフィーでしょうか。

大野さん

基本はそう。モビリティランドのようなテーマパークって、なくても生きる上では困らないんです。だから、何のためにこういう会社をつくったのかが、ものすごく大事なんです。常に期待される存在でないといけない。経済合理性だけでいえば切られてしまうので。

福間

何のために、という思いでつくった会社だから、人に対しても思いが必要ということですね。

大野さん

思いを従業員にわかってもらわないと、会社が存在している価値が形にならないんだよね。

福間

従業員ひとりひとりが会社の思いを理解することで、会社の価値を形にできるということですよね。大野さんにとって人材って何でしょうか。

大野さん

従業員っていう面で言うと「僕にできないことを出来る人たち」。なので、僕にとってはリスペクトの対象ですね。自分には出来ないことでも、意外な人がサクサクっとできてしまう。だから、人材マネジメントというのは、そういう人の出来ることを、偉そうにいうと、どう伸ばしてあげられるか。本音で言うと、会社としてどう活用できるかだと思う。

福間

エルダー人材の研修のご依頼をいただいたとき、そういう思いが入っていたと思うのです。人は本来、存在するだけで価値がある。ただ、その「良さ」を発揮できない何かの要因があったり、本人の中でねじれてしまっている部分がある。そこを分かってあげるだけでいい。そもそも、本当に悪い人は、それ程いない、気持ちの整理ができたら勝手に気づいて、再び成長しはじめる。そのことを信じてみたいというメッセージをもらった気がしたんです。「Beマネジメント」という会社名の「Be」は「存在する」という意味があります。実は、この会社名にしたのも、存在そのものの価値を認め、引き出すお手伝いをしたいという思いからでして、まさに大野さんから教えていただいたことなんです。

大野さん

格好よく言えばそうだけど、自分の場合は結局知らなかっただけじゃないかなとも思う。現場の仕事をあまりしてこなかったから、その人たちのことを知らないからできたのかもしれない。

福間

近くなりすぎると、思い切った手を打てないっていうのもありますよね。

大野さん

一人ひとりと直接仕事して部下として使っていたら、見えすぎてマイナスなところばかりに目が行っていたかもしれない。管理として俯瞰して物事を見ていたから、従業員のもつ良い部分に気づけたのかもしれない。

福間

客観的に見ていたから、価値が見えていたということですね。コンサルタントもまさにクライアント企業を客観的に見るからこそ、その企業や働いている方々の価値に気づけるという自負を持って、サービスを提供してまいりたいと思います。

– PROFILE
プロフィール

大野 至(おおの・いたる)様

1985年、「鈴鹿サーキット」などを運営する株式会社ホンダランド(現・ホンダモビリティランド株式会社)に入社。モビリティ体験をテーマにした遊園地「多摩テック」に配属される。その後、本社総務部で人事労政企画を担当し、鈴鹿サーキット予約センター課長、東京営業所長、営業企画室長、総務部長、多摩テック総支配人、取締役ツインリンクもてぎ総支配人を経て、2013年から常務取締役、2021年から専務取締役を歴任、2023年定年により退任。

福間 昭史(ふくま・あきふみ)

1969年、島根県生まれ。1994年、国内大手コンサルタント会社に入社。営業責任者、新規事業プロジェクトのメンバーを経て、コンサルタント部門に異動、マネージャーコンサルタントなどを歴任。2010年、ベンチャー系コンサルタント会社に転職、CTUディレクターコンサルタントとして活動。2019年に独立し「Be Value Consulting」設立、2023年に株式会社化し「株式会社Beマネジメント」に社名変更する。

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