松本様対談

クライアントと共に考え、成長を支えるコンサルタントでありたい

松本 隆 様

Beマネジメント 代表取締役 福間昭史

人や組織の問題は単純ではなく、複雑な要因が絡み合います。
専門知識を持つコンサルタントとして、どのような視点で人や組織の問題に取り組み、クライアント企業様の成長をお支えするべきか――。
弊社代表・福間と長年お仕事をご一緒させていただいております松本隆様に、お話をうかがいました。

人や組織を主観ではなくデータで客観的に判断する

福間

松本さんとお仕事をご一緒にさせていただいたのは、もう10年以上前になりますよね。松本さんが当時在籍していた会社から、企業の組織診断や人材特性調査のご依頼をいただいたときでした。

松本さん

はい。2006年のことでしたね。私が当時在籍していた会社で、管理職の人事評価について「誰が専門職向きで、誰がマネジメント向きの人材だ」だという論議していたときに、当時の社長から「それは本当にあっているのか、主観が入っているのではないか」と意見があり、一人の人物に対して複数の評価者が点数をつけたところ、評価がバラバラになるということが起きました。

そこで客観的にアセスメントしてもらう必要があるのではないか、ということになり、福間さんが当時在籍していたコンサルティング会社に組織診断と人材特性調査を依頼しました。

福間

そうでしたね。最初の組織診断の報告会を私が担当させていただきました。人事評価をする側の20名弱の部課長クラスの方に集まってもらい、診断結果を説明したところ、うわーっと意見が出てきて大変でした。

松本さん

理科系の会社なので、データ・数字で結果が出てくると興味をもってみんな食いついたんです。初めてのことだったので、結果に対して興味をもって質問する人間もいれば、疑って訊いてくる人間もいて、意見が噴出して議論も混乱しました。しかしその後、組織診断は定点観測でほぼ毎年行うようになり、人材特性調査は3年に1回くらいの節目で入れていくということにみんなが慣れてきました。

診断結果を活用するとどういうことができるのか、どういう論議ができるのか、というのがわかるようになってきました。しかし、混乱を招くような議論にはならず、診断結果を活用する術もそれぞれのマネージャーたちがわかるようになり、2010年過ぎると落ち着いた議論になってきました。

クライアントもデータを使いこなすことが必要

福間

様々な会社で組織診断を実施してもらいましたが、松本さんの会社ほど完全に使いこなしていた会社も他にはなかったのではないかと思います。組織診断でどんな質問項目を設けるか、どういうふうに分析をするのかというのは、コンサル会社の思い入れや導き出したい仮説。そのあと受注につなげたい仕事があったりするので(笑)、そういう発想でつくるのですが。

コンサル会社が提出した結果は受け止めながらも、「我々として検証したい仮説があるので、この元データをこのように解析してほしい」とか、「このところを解析したいのだが、何かよい方法はないか」など、何度も繰り返す中で人材のモチベーションを可視化するためには何をしたらいいのか、というのが見えてきました。

松本さん

モチベーションとモチベートされる要因は何なのか、人材特性調査だけじゃなく、組織診断からも見えてくるんですよね。回帰分析という方法を用いて、パフォーマンスモデルを会社なりに作るようになり、人材がポートフォリオ上に分散される分析なのですが、それを見ながら各マネージャーがマネジメント上の課題仮説を作ったり、それが合っているのかを検証したり、というのができるようになったのが、2015~2016年くらいでした。

福間

データを解析してちょっと、よくわからないなというとき、7~8割がた煮詰めて松本さんところに持っていくと、「これってこういうことなんじゃないの」ってポーンと答えてくださって、大変勉強になりました。

松本さん

パフォーマンスモデルを使って解析していくと、この組織は何型組織です、というのが出てくるのですが。これに興味をもったメンバーが、自分たちで考えてみようということになり、自分たちなりの縦軸、横軸を立てていくと、より的確な表現が出てくるということになりました。そしてその解析結果をもとにマネジメントに生かしていくと次の診断のときに新しい結果が出るので、パフォーマンスモデルを徐々に変えていく、となりました。

福間

それこそが仮説、実践、検証なんですよね。検証した結果、新しい仮説に至るというサイクルですよね。そこを徹底してやるかどうかですよね。どれだけみんなが納得性の高い仮説をつくるか、仮説に基づいてどれだけ実践するかです。実践した結果仮説にしがみつかずに検証するかです。仮説が正しいと思っちゃうと、そこから動けなくなってしまう。

松本さん

それは一つ乗り越えないといけないポイントのような気がしています。だれしも自分の立てた仮説にこだわりたいというのがあると思う。よほど時間をかけて信念を形成してきた人であれば、その仮説というのは説得力もあるし納得性もあるしアセスメントでも検証されていくでしょう。そうではない仮説というのを自分が持っているとしたら、それは仮説ではありません。あくまで我流の考え方に過ぎないと思わないといけないんです。だけど人間そこまでなかなか客観的になれない。

福間

データを使いこなして仮説、実践、検証を繰り返していくということが、クライアントにも求められてきますよね。

危険な簡略化はしない

福間

コンサル会社のほうの裏話をすると、企業の類型というのも、仮説にすぎないんですよね。こういう会社が1番目に良い会社、2番目、3番目はこう、というのは初年度の集めたデータで仮説を作る。2年目にどうなったかでいうと、1番良いとされていた会社が潰れていたり、なくなっていたりする。で、初年度の成績が一番下のほうだった会社が頑張っていたりする。

この仮説ダメじゃん。ということになるんですが、コンサル会社もなかなか頭が固くて仮説を改められないで、古い仮説のままで顧客に説明を押し通そうとしたりするので、コンサル会社の説明というのも安易に鵜呑みできないんですよね。

松本さん

アセスメントの見方でスコアが低いよりは高いほうがいい、組織類型で、あたかも一番上がいいように見えてしまうところがあるけど、それにこだわってしまってはダメなんだと思うのです。スコアが高い低いで良い悪い判断するのではなく、ある特徴が出ているということを理解してその特徴ごとに何に注意しなければいけないのかを見なければいけない。調査するタイミングで傾向が激変することがあるが、特徴的な変化を見つけて、仮説を立てていくとよいツールになると思います。

福間

どう使いこなすかですよね。私は「危険な簡略化」と呼んでいるんですが、何が良くて何が悪いかというのはわかりやすい。コンサル会社はやりたがるんです。簡単なほうがわかりやすいので、お客様からのウケもよく次の受注に結び付きやすいから。でも、本当は人や組織の問題って、そんな単純に答えが出るものではないんです。外部環境や上司との関係、現在進行中の仕事の状況など、様々な要因でうつろいやすいものだという前提で、かつ確定するものではないという前提で、フレキシブルに組織や人を見ましょうというと、分かりにくいんですよね。

だから簡略化したいという方向に行きがちなのですが、危険なんですよね。ただ、それを言って分かっていただける経営者ばかりじゃないのですよね。

人や組織は白黒で分けられない

松本さん

我々はしばしば「白黒はっきりさせよう」なんて表現を使いますよね。例えば「うそをつくのは悪いことで、うそをつかないのが良いことだ」という話があったとします。ところが人を傷つけないための嘘という考え方もあります。相手のためを思えばこそ、あえて真実を知らせない。それは白なのか、黒なのかという話になります。白黒で例えていうと世の中全部グレーなんです。白っぽいグレー、黒っぽいグレー。本当の真っ白、本当の真っ黒というのは存在しない。

分析会社の社員には完全無欠の黒や白はないだろっていうと理解されるんです。ですので、グレーの世界でどう生きるのかと考えることが大事であり、うそつきは悪い、誠実なのは良いっていう判断だけで物事を見てしまうとうまくいかないんです。

福間

考えることを放棄すると、良いか悪いかで判断するほうがラクなんですね。考えるという行為をずっと失わずにいたい、というと安易には決められないんですね。

松本さん

白黒つけるためのマネジメントツールって結構ありますよね。ある基準線、ボーダーラインを引いて、こっちはOKでこっちはNGていうのは現場管理でもよくあります。

実際にはアナログなものでも、ボーダーラインを境にゼロかイチかという判断になってしまっている。

福間

ボーダーラインはしょせんボーダーラインでしかないんですけどね。

松本さん

例えば大学受験でも、ボーダーラインよりもちょっと上なら合格で、ちょっとでも下なら不合格になってしまう。でも、すごい高得点の合格者とボーダーぎりぎりの合格者の差って実は大きくて、ボーダーぎりぎりの合格者と不合格者の差ってものすごく小さいなんてことはありますよね。たまたまそこに合格ラインという線が引かれているから合否が分かれてしまっただけで、当落線上にいる受験生の本質的な能力の違いはないと思うのです。それに大学側の事情で、志願者が少なければボーダーライン自体が下がるじゃないですか。ボーダーラインというのは絶対の真実ではなくて、何らかの事情でそこに引いているだけだということをよく理解しないといけないと思うのです。

福間

おっしゃる通りです。コンサル会社が出した数字や組織類型を丸呑みするんじゃなくて、この数字が何の意味を持っているのか、わが社にとってのメリットは何なのか、うちの会社はどこにいるのか、というのをクライアントさんにも考えていただかないといけないんです。結果だけ出してもらって一喜一憂しているだけでは考えることを放棄していることになってしまいます。

松本さん

マネジメントやコンサルティングが難しいのは、相手が人や人の集団だからなんですね。もともと難しいことが求められるので、数字というわかりやすさを使いながらも、その絶対値だけで論議をするようなことは決してせずに、数字というのは考えるための言語の一種で、ちょっとわかりやすい記号の一種だというくらいにとらえて、考えていけないと思うんです。

福間

考えるのが面倒くさくて嫌な人は、データを見せられると、「手っ取り早く答えを教えてくれよ」「それって合っているんだよな」「どれくらい信ぴょう性あるんだ」と言ってくるんです。考えることをやめて、思考を省略してしまっていますよね。

松本さん

思考を省略する人っていますよね。案外偉い人で多かったりする(苦笑)。信念というより我流の考えであって、そういう人が思考を省略し始めると、周りは困ってしまいますよね。

心地よくないことを直言するのもコンサルの役目

福間

昨今、ハラスメント対策の研修を依頼されることがよくあるのですが、気になることがあります。クライアントの会社さんが、社内でハラスメントのガイドラインをつくっているのを見せていただくと、厚生労働省が出しているハラスメントのガイドラインの文章をそのまま抜き出してきている。ひどいものになると、ガイドラインで「ここから先のことは自社内で検討するように」と書いてあるのに、それもそのままコピペしている(笑)。

あれも要するに、ハラスメントの担当部署の人たちがリスクあることを言いたくない、自分なりの解釈を入れて違うだろって言われて責任を取らされたくない、ということで保身のためのアリバイ工作になってしまっているのです。ハラスメントを本当になくしたいのか、そもそもハラスメントというものに対してどんな見識を持っているのかというのは全く議論されないまま、ただコピペでガイドラインを作っている。非常に危険な現象が起きている気がします。

松本さん

厚生労働省の出しているパワハラのガイドラインというのは、ものを言えずに自殺をしてしまう、復帰不可能なほどにメンタルにダメージを受けている、泣き寝入りをしているという深刻な事例を防ぐために作ったはずのもので、しっかりと考えられているのです。ですが、よくあるのは、ちょっとした程度のことをパワハラだと騒ぎ立てて、ハードルを下げてしまっている。社員が日常的に上司からちょっと注意されただけで、パワハラじゃないかと。パワハラ防止法でも定義されているんです。

①優越的な関係を背景とした⾔動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③その雇用する労働者の就業環境が害されること

――と。3つがそろわないとパワハラとは言わないのですが、3つそろうことってそんなに多くない。これはパワハラなのかそうでないのかと、判断しないといけないんですが、みんなその判断を省略したり、判断の逃避行為をしている。危険な簡略化が世の中全般で起きている。

福間

私も以前ある会社で「パワハラっていうのは、相手がそう感じたらパワハラだ」って言われたことがあり、「そんなふうに決めたら何もできなくなる」と意見したことがありました。

おっしゃる通り厚生労働省のガイドラインでもそんなことは書いていないんですよそうね。また、「こういうものはパワハラであるが、こういうものはパワハラには当たらない」とハラスメント対策研修で説明すると、お客様が不安そうな顔をするんです。「パワハラ研修なので、これはパワハラじゃないっていう話をしないでほしい」と。それでは理解が深まらないのですが、考えるのを放棄してるんですね。

何でもかんでもパワハラと言われる恐れがあるから、管理職は反省しなさい、気をつけなさいと言ってほしいみたいなんです。こんなことをしていると企業のマネジメント力が下がってしまうし、管理職と部下の関係性が悪くなるだけだなと危惧しています。

松本さん

厳しい決断をするとき、責任を取りたくない、自分に降りかかってくること、周囲から言われることが、自分にとって心地よくないというときに、人間は楽なほう、波風立たないほうに行ってしまう。自信のなさもあるかもしれない。考えたけれども、ジャッジできない。いう能力が自分にないなというのを隠したいから安きに流れる。こういうのは頭の良しあし、学歴のあるなしではない。

福間

ハラスメントに関しては、中途半端な研修をやっているコンサル会社もあるんですよね。研修会社のほうが誤った考え方やバイアスを助長することがある。そういう仕事はしたくないなと常々自らに言い聞かせています。

松本さん

なるほど。コンサル会社としても、クライアントにとって心地よい結果を与えればお金になるから、そっちの方向に話をつくってしまうということはありますよね。

福間

はい。クライアントにとって心地よくて、わかりやすくて、スッキリする話ですね。スッキリすると人間って思考をやめてしまいます。思考をやめるからスッキリするとも言えます。

ただ、そこで物事は進んでいない。モヤモヤするとエネルギーは使う、精神的にも負担になる、でも思考は進んでいる。モヤモヤしないと人も企業も成長しないですよね。クライアントにとって心地よくないこと、わかりにくいことでもきちんと伝えて、考えることを促すことがコンサルタントの仕事だと思っています。人と組織の問題に真摯に向き合い、考え続けるクライアントと共に私も考え続け、クライアント企業の成長のお手伝いをしていきたいですね。

松本さん

重要なのは、モヤモヤすると考える、自分がどういう行動をとったらいいのかという仮説が出てくる。仮説を作ったら実践しなければいけないのですが、実践する前に今度は本当にその仮説でいいのかと不安が出てくる。

ここが一番大事なポイントかもしれない。実践しないで、不安になって抱え込んで結局行動するのをやめちゃう。そうなるとモヤモヤも膨らむ、ストレスもたまる、結果もよくないということになると、悪いスパイラルに入る。次からは考えるのをやめよう、ということになる。これはすごくもったいない。モヤモヤとして自己仮説を立てるところに、どう介入していくかが人材マネジメントであり、コンサルタントですよね。

– PROFILE
プロフィール

松本 隆(まつもと・たかし)様

1959年、東京都生まれ。1983年に大手自動車メーカー入社。材料技術部、生産部門で駆動系要素の強度解析、生産技術の研究と開発に携わる。グローバルな車両開発効率向上のプロジェクトリーダーを務めたのち、2005年に材料解析を行うグループ会社に出向。2013年同社の代表取締役に就任し、電気自動車用リチウムイオン電池の開発放射光、中性子解析のビジネス活用などを手掛ける。2022年退任。

福間 昭史(ふくま・あきふみ)

1969年、島根県生まれ。1994年、国内大手コンサルタント会社に入社。営業責任者、新規事業プロジェクトのメンバーを経て、コンサルタント部門に異動、マネージャーコンサルタントなどを歴任。2010年、ベンチャー系コンサルタント会社に転職、CTUディレクターコンサルタントとして活動。2019年に独立し「Be Value Consulting」設立、2023年に株式会社化し「株式会社Beマネジメント」に社名変更する。

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